色色
文字とイメージが行き交う、それは人間の右脳と左脳の思考の交差にも重なる。
文字から受けた情報とイメージから受けた印象の交差の中で今回の作品展の成立を考察する。
今回の展覧会では、2点の比較的若い女性の顔を描いた作品が展示された。
その一点、ギャラリー正面、モノトーンで描かれた首から上の女性の顔の作品。無表
情で冷たい印象。目が猫のように細く首が顔を支えるようにしっかり伸びて描かれて
いる。髪の毛は黒くうっすらと耳が描かれている。まつげはうっすらと描かれてお
り、眉毛は描かれていない。首がしっかり顔を立たせており、顎が幾分前に出ている
ように見える。
もう一点は、色彩豊かに描かれ女性の顔の正面向きの作品。輪郭線を描いていないた
め、また優しい色使いのため、絵画全体が柔らかい仕上げになっている。顔の輪郭
は、色の微妙な変化によって表現されている。髪の毛、耳、睫毛は描かれておらず、
しっかり見開いた「眼」が印象的な作品となっている。この作品の設置は、作家の以
降で、人の顔が時計周りに90度、つまり3時の位置に回されている。この90度の
回転によって、見るほうに不安定な感覚を抱かる。この作品の目もしっかり開いてお
り、対象部を見ようと試みているが、前方の確定した一点には焦点が合っていない。
二つの作品に共通していることは、真正面の顔を描いていることである。通常、肖
像画などの作品では、僅かに斜め向きの顔の表情を捉えて描いている。そのようにす
ることによって、ほぼ対象である顔を非対称な対象物として描くことができ、絵画の
面白みを増すことになり、また輪郭に陰影が生まれ複雑なイメージが生まれる。
通常、非対称に描く「顔」を正面から描いたこの作品は、見るものに違和感を感じ
させる。
さて、この二つの顔は現代、今の何を物語っているのであろうか?
作品の制作者が若い場合、その作品は現代の世相を反映していると考えられる。作り
手が社会を意識して生きた時間が短く、ここ数年の短い間の社会現象に影響され思考
しているからだ。勿論、作品によっては作家の幼年時代の思い出や感傷に関連付けら
れたものや、作家の個人的な心の独白のような作品がある。しかし、この作品はこれ
らには当てはまらないであろう。物事を鋭く捉えようと目を見開く有様は、制作者が
正に社会に対して積極的に捉えたいとい心の現われであり、現代の若者の世相の一部
を切り取っているのであると推測できる。制作者は、社会を現代の世の中を真剣に見
ようと試みているのである。
電車の中で一心に携帯電話の画面を凝視している若者は、埋めても埋め尽くせない情
報の波と人の繋がりに困惑し、その術を見出そうとしている。彼らもまた、社会を真
剣に見ようとしているのである。
45度の回転して設置された顔の作品は、展覧会前の仮設置時に180度反転させた状
態で設置されていた。天地を反転して描いたのかという問いに、そうではない、と作
家は答えた。しかし、この作品は、顔本来のそのままの位置に置くと、顔として奇妙
な様子に仕上がっていて置くことは出来ない、と作家は主張した。顔を回転させて設
置したい制作者の落ち着かない
一方の作品は、作家は正面から社会を捉えようとして、もう一方の作品では斜に世
の中を見ようと試みている。既に若者の気持ちから初々しさが失われ、欺瞞に満ちた
世間を真剣に見ることを諦めつつあるように感じられる。 (中島由記子)
略歴
- 1984年
- 島根県生まれ
- 2009年
- 金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科絵画専攻修了
個展
- 2007年
- 「A strange newboun things」民家/金沢市
- 2007年
- 「8つかど」グリーンアーツギャラリー/金沢市
- 「一号一絵!?」ポーラミュージアムアネックス/銀座
- 「Bumpkin summer vacation」東京近代美術クラブ/京橋
- 2008年
- 「暮らしの中のアート」中村住宅開発(株)・久安分譲住宅/金沢市
- 「P&E2008」ART COURT gallery/大阪
