山本恵
作品の材料は見慣れたものが多い。
使われなくなった糸巻、ピンセット。ネジ巻き式時計に入っていたネジやビス。もう動かなくなった時計の針。理科の実験に使うフラスコや試験官。子供が遊んで捨てた人形の足やふわっとした布の小片。ぴかぴか光るフォークやスプーン。子供が遊んでいた木製の積み木。作品の中のワイングラスは逆さむいている。
どこでこういったものを探してくるんだろう。不思議に思う。
古くて小さくて、懐かしく感じるものを集めているらしい。作家は骨董には興味がなく、蚤の市が好きだそうだ。骨董は、古伊万里のお皿や湯呑み、漆のお椀など、用途が決まっている。それに比べて、蚤の市は、もっと雑多。買い手が価値を見出さないと、ごみになるようなものが大半だ。そのモノを最後に使っていた人と次の使い手の価値が変わっても構わない。サラダボールを植木鉢にしても、カーテンを洋服にしてもいい。
そう、山本恵の作品は、使われなくなった使い古されたものを箱の中に置いて、そのものの存在やものの有様を浮かびあがらせている。布の綻び（ほころび）やほつれ、金属に付着した錆びまでが、ここにあったのかと改めて感じさせてくれる。そして、それは元にあった様子とは様変わりしている。時には、全く関係のないものを組合わせたり、時には、紐で結わえて微妙なバランスを箱の中に作ったりする。
今回は蓄音機がテーマである。山本は、古い蓄音機を友人から貰い受けた。長らくそのままにしてあったが、何の気なしに箱を壊し、中の機械を取り出してみた。そこには、作家が好きな、ネジ巻きやピン、古い機械が詰まっている。大事にもう一度動くようにしたという。
展示された蓄音機は、もう蓄音機ではない。彼女が箱の中を分解したことによって、機械がむき出しになっている。彼女の手によって、その機械がみちがえるように綺麗に見える。
