---ＭＥＭＯＲＹ ＧＡＰ----
Suh Yoon Hee は韓国で活動している作家。
彼女の作品には、水辺の風景や砂漠の様子などが描かれ、いずれも閑散とした静寂さが伝わってきます。
どの作品も大地の様子が丁寧に細かく描かれ、その美しさと緊張感を伝えています。
そして、遠く空の上から大地を観察している視点で、人間が小さく描かれ、静寂な大地に存在する人間の生命力のようなものが静かに伝わってきます。
韓国ソウルの梨花女子大学大学院を修了し、ソウルなどで個展やグループ展を行っている。
作品が出来るまで
ソ・ユンフィ氏は、染色した墨汁滲みが卓越した韓国古来の伝統紙である韓紙の上に絵を描く方式の作品を制作しています。韓紙をそのまま利用したり、または押しつぶしたりする方式を通じて質感を作り上げ、同時に様々な自然の染料を利用し染色しています。染色の効果により画面は多様な色彩が調和した深みをもち、ここで表現される躍動感によって画面の中に余白と空間が現われます。パターンの画面は風景になり、幻影となると同時に空気となるなど作家の想像力によって千変万化した姿に変えらます。
作家はそれにとどまらず、その上に絵を重ねます。その際、その上に重ねられた絵は何らかの意図をもつというよりは、ベースの壁紙を始めとしてひらめきによって決まり、それが事物であろうが人であろうが関係なく、無理やり話を作り出す必要もありません。抽象的な画面を見て、思い浮かぶ具体的な形象が加えられてからこそ、初めて完成した作品ができるのです。
驚いた搬入
韓国での現代美術の熱気は日本と大違いです。今回、Suh Yoon Heeさんの展覧会の搬入を一緒に行って、その熱気の理由の一端が分かったような気がいたしました。アーティストの方も”熱い”のです。 出展作品は合計5点。航空便の運送費が50万円でした。企画展覧会ですが、今回の搬出入はアーティストにお願いしましたので、手荷物で持って来れる作品の量をお願いしておりました。しかし、彼女の展覧会への気合と熱意が勝り、美術館へ運ばれるような木箱に梱包され作品が画廊にやってきました。韓国から委託された日本の運送会社から、トラックから荷物を降ろすには男性5人画必要ですと電話が入りました。梱包木箱と作品と合わせて合計130ＫＧに及ぶ荷物が運ばれてきました。ギャラリーの真ん中に置かれた木箱は圧巻でした。
一番大きい作品は、作家にとって非常に大切な作品で今回”非買”でお願いしますということです。しかし、彼女は日本のアートファンに見て欲しい気持ちでその作品を韓国から運んできました。その熱心さに心を打たれました。
アートはマーケットにならないと嘆いている日本人アーティストやギャラリーは、どうせやっても仕方が無いと適当に展覧会を流しているような気がいたします。藝術とは”他者を寄せ付けない圧倒的な物"であるはずなのに、取り巻く日日の仕事全部が、普通以下の状態であるような気がいたしました。韓国は、マーケットが熱いのではなく、アーティストそのものが熱いと分かりました。これは非常に大切なことであり、当たり前のことでもあります。
＜中島由記子＞
