第3回 評論の会

第3回 「評論を書くことを考えてみる。」   
------ 評論で何を伝えたいか。何が伝わるか。-----
 共催  大阪大学文学部美学研究室

 大阪大学文学部美学研究室の学生の皆様に展覧会の作品を実際に見て、評論文を寄稿して頂きます。会では、それを各寄稿者に朗読して頂きます。書き手と作り手の伝え方の違い、書き手の作品へのアプローチの仕方、評論文の役割など、作家を交えて討論していきます。
 学生が展覧会の作品を評論することから始まり、その作品と評論文の関係性を聴講者が評論することにより、より作品に深くアプローチすることが会の狙いです。
 

  日時  6/25(土) 14:00~ (2時間半を予定しております。)
  場所  Gallery AMI&KANOKO
  司会  加藤瑞穂 
被評論作家   堀尾貞治・長野順子

<加藤瑞穂略歴>
1967年神戸市生まれ
大阪大学大学院文学研究科修士課程修了(芸術学専攻)
1993年より芦屋市立美術博物館学芸員。
同館美術部門学芸課長などを経て2011年より大阪大学総合学術博物館招聘准教授。芦屋市立美術博物館在職時に引き続き、現在も具体関連資料の整理や展覧会の開催にインディペンデントで携わっている。

 

 第二回「評論を書くことを考える会」で寄稿してくださった、大阪大学美学・文芸専修4回 米田千佐子さんの評論文を掲載いたします。

「この評論は、西村さんの作品をたくさんの人に見に来て欲しいという気持ちで書きました。」という評論文。一生懸命美術を見て、作家の作品を自分の言葉でもって紹介しようとしてくれた文章です。
 この文の中には、「共感」や「傾聴」というような受信がなされ、彼女自身の発信が見られます。

 

闇と光の先に得るもの~西村のんき展「のんきの戒壇めぐり」を鑑賞して
     米田千佐子

 町屋の木の階段を二階に上ると、観客はまず、『覗き窓』と『入口』の二つの表示のある入口に出会う。ここでは『入口』からの体験を中心にこの作品について語りたい。
少し身をかがめねば入れぬほど低く作られた『入口』を入ると、まず暗さに驚く。一つ目の角を曲がると少し広い空間に出る。そこで留まると、だんだんと闇の中にいることに慣れてきて、そこに何かがいるのが分かる。単に暗闇に目が慣れて壁面、あるいは天井の絵が浮かび上がって見えてくるだけでなく、闇の中で身体の感覚が研ぎ澄まされ、何者かははっきりと分からない何かの気配を濃く感じる。その何者かがふと動き出すのではないかと半ば恐ろしく、半ば楽しみに感じるようなそんな気分になる。

作品を先に進む。日のある時間であれば、畳から板の間に移る辺りに自然光によってもたらされる色鮮やかな空間が待ち受けている。今までの闇とほのかな灯りの世界とは違い、明るい光に満ちた世界である。外からの光によってアクリル絵の具の色がろうけつ染めを施した水墨画を通して透け、濃いピンクや黄色、緑などが鮮やかに、しかし柔らかく輝く。ろうけつ染めの効果もあり、ここには色々なものの魂が流れているような形が現れ出る。日の入り後であれば、そこはまだ暗い空間ではあるが、板の間に踏み出し、最も奥の間に向かおうとするとき、奥からの強い灯りに気がつく。

低い天井の終わる奥の間には、正面に蓮の葉と蕾とおたまじゃくしの銀地着色画の掛軸、右手の壁に蓮の葉と蛙の絵の金地着色画の掛軸が掛けられている。左手は床の間を左から眺める形で、跳ねるような蛙が三匹と黄色い動物の銀地着色画と赤黒い蜥蜴と蛙の金地着色画の掛軸がかけられ、和ろうそく(あるいは10ワットの電球)が置かれている。和ろうそくの強い灯りに照らされたこの小さな空間で感じるのは高揚感だ。金箔、銀箔、岩絵の具のガラス質が照度の高い和ろうそくの光にきらめき、楽しそうな蛙たちの様子はますます生き生きと感じられる。法悦とでもいうのだろうか。闇の中での光ときらめきとの戯れにうっとりとする。「戒壇」とは僧が戒律を授かる場所である。私たち観客も、闇の中で自らの感覚を研ぎ澄ましながら作品の中を進み、闇と光を楽しむことで悦びを得る。これが「戒壇めぐり」というこの作品の意味、ねらいなのではないかと気がつくのである。

西村氏は「具象が大きくなって抽象になるのがいい」と語るように、この作品には実は大きな龍が隠れている。この障壁画は、二枚の丈夫な和紙の二枚一組にして重ねたものだ。一枚は五色のアクリル絵の具で、一枚はろうけつ染めのほどこされた紙に多種類の墨で、同じ形が描かれている。作品内部は大部分に寒冷紗も重ねている。その層を通して私たちは、闇の中のほのかな、きらめく光を受け取っているのだ。この光は、私たちが普段目にする反射光ではなく、光源であるのだ、ということも西村氏の狙いの範疇である。

この作品には、ぜひ長居してほしい。日のある時間と、夜と。背をかがめてこの空間に入り、闇の中で何者かの気配を感じる体験を、極彩色の光に一気に気持ちの華やぐ光と色を楽しむ体験を、そして、最後に闇とも光ともつかない狭間で、うっとりとした高揚感と静けさを自分の内に相持つ体験を、じっくりと時間をかけて自らのものとしてほしい。夜が更けても本当の闇は訪れない現代の私たちの暮らしの中で忘れかけている感覚を思い出す、空間、時間を生み出したインスタレーション作品である。(1434字)



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